ライム病ボレリア媒介性のシュルツェマダニ、野鼠血液および野鳥寄生のシュルツエマダニから分離培養したボレリアの分子生物学的性格付けをおこなった。5株のボレリアはずべて38kDaの鞭毛蛋白を有し、これはライム病ボレリアの41kDa蛋白に較べて分子量が小さく、回帰熱ボレリアに近いものであった。そのうちの一株の鞭毛遺伝子をクローンして塩基配列を明らかにし、ライム病、回帰熱ボレリアの鞭毛遺伝子の配列とそれぞれ比較したところライム病ボレリアとは83%、回帰熱ボレリアとは91%の相同性を示した。さらにリボソームRNA遺伝子の構成も回帰熱ボレリアと一致し、制限酵素切断点の配列もよく保存されていた。 ついで、この分離株のG+C含量を高速液体クロマトグラフィーにより測定してボレリア属細菌のG+C含量と一致する(28〜30%)ことを確認した。さらに回帰熱ボレリアおよびライム病ボレリアとのゲノムDNA hybridizationを行って互いの相同性を検討した。現在までにライム病ボレリアは3種が報告されているがすべての種との相同性は10%以下であり、回帰熱ボレリアとの相同性も50%以下であった。これらすべての実験結果はこの分離株がボレリア属の新種であることを示している。さらに16S rRNA遺伝子の塩基配列も決定し、他のボレリアと比較したところライム病ボレリア種とは95%、回帰熱ボレリアとは97%の相同性が確かめられた。この結果も我々の分離したボレリアが新種であることを支持していた。以上の結果から、このボレリア種は回帰熱ボレリアに近い起源をもちながら、ライム病ボレリア媒介マダニに寄生するように適応した結果、ここで明らかにしたような分子生物学的性質を有するようになったと考えられた。
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