研究概要 |
脳の高次機能の男女差とか、年令経過を追った高冷化現象を検討したり、あいはその人種による比較を行うことなどは、人類学の重要な基礎的テーマである。高次機能を簡単に計量的に測定する基準として、左右の大脳半球を連結する脳梁をとりあげた。脳梁の正中断の大きさや形態は、全体およびその部分ごとに、そのまま左右大脳半球の総合的および局所的高次機能の特性を反映すると考えられるからである。大阪大学医学部、大阪市大医学部、兵庫医科大学の系統解剖実習の機会をとらえ、成年より老年に至る男性152例、女性104例の脳の正中断面を写真撮影した。得られた像より、大脳断面、脳梁断面の全体とその3分割、5分割について、二次元解析装置を用いて面積を計測した。また諸外国における最近の報告(たとえばHolloway,'93)と比較した。 まず大脳正中断面積、脳梁の全面積、および脳梁の3分割、5分割におけるいずれの部位の面積についても、すべての場合でその絶対値の平均は常に男性が女性を優越した。次に年齢を横軸にとって分布図を作成すると、大脳正中断、脳梁正中断のいずれにおいてもその退行直線(最小自乗法による)はゆるやかに下降する。次に脳梁の大脳断面との相対比、脳梁の3分割、5分割の脳梁全体との相対比を検討した。この場合のすべての値については、男女間に統計的有意差を認めることは出来なかった。さらに例数を40才より69才以下(男性55例、女性20例)、70才より79才まで(男性49例、女性35例)、80才以上(男性45例、女性53例)に年令を区分して、それぞれの相対比を比較したが、やはりいずれの場合も男女間に有意差を認めることは出来なかった。これらの日本人における結果は、Hollowayがすでに報告された諸外国の例を包括して自験例と合わせて検討し、脳梁膨大部(5分割の最後部、視覚野を連結する線維で構成される)で女性が男性に比して優れると述べた結果と一致しないようである。
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