ヒトの基本姿勢である臥位と立位では生理機能の働きが異なり、臥位は休息の系である副交感神経系優位の状態であり、立位は交感神経系優位である。昼間の交感神経系の緊張の程度が夜間の睡眠の質に影響を及ぼすのであれば、ストレスによる不眠症の解消法としての姿勢の重要性、及び長期療養者のベッド姿勢の在り方に有用な示唆を与えることができる。そこで種々の生理的測定項目から交感神経系緊張型の姿勢と副交感神経系優位の姿勢を決定し、各姿勢を昼間に保持した時の睡眠の質を脳波から解析することにより、この仮定を検証することを目的とした。 昼間での上半身を起こした姿勢(TILT)は仰臥位と比較して、交感神経系を賦活させた。しかし、代謝量には差がなかった。睡眠時の脳波解析により睡眠潜時、徐波睡眠の割合、中途覚醒時間の合計等から判断すると、TILT姿勢の方が睡眠深度は低かった。即ち、睡眠の質は倚座位の方が仰臥位よりも悪いと考えられる。また、入眠直後の皮膚温の変化をみると、TILT姿勢での一過性の上昇およびその後の低下の程度は仰臥位よりも小さかった。一般に、入眠前後は血管を支配する交感神経の活動が低下して末梢の皮膚温を上昇させ、放熱を促進させ深部温を低下させる。TILTでの姿勢維持がこれらの変化をもたらさなかったことは、睡眠中にも自律神経系の緊張が持続されている可能性を示唆する。従って昼間の受動的な自律神経の緊張は夜間も持続し、睡眠の質を悪化させると推測される。
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