今年度、周思春期霊長類個体に関する縦断的形態学的・生理学的同時研究システムの確立を重点的に行い、資料収集を開始した。さらに縦断的研究では個体数が限定されるので、横断的資料を追加した。対象としたのは霊長類研究所飼育群と野生辛島群(宮城県)で、発育に関して前者はニホンザルの標準に近く、後者は非常に遅滞しており、それらの間での周思春期発育パターンの比較は興味深い。体サイズ、生殖器管の発達、皮厚計測値や体充実度(BMI、相対的立方根体重)の年齢変化パターンを予備的に検討したところ、思春期ごろに著しい変曲点を持つことが明らかとなった。思春期解発に関連するとされる体組成・体脂肪蓄積は個体差が大きいため、資料を相当蓄積する必要があり、本年度はその収集に努めた。本年度末までに蓄積したチンパンジー手掌部X線写真を観察し、骨発達に関して予備的分析を行い、骨発達が体サイズ成長と同様、思春期ごろに加速することを明らかにした。 内分泌生理学的研究では、ニホンザル前思春期年齢個体で集中的にGH分泌動態を調べた。その分析から、日内変動パターンや年齢変化の基礎的知見が得られ、季節変化などの長期的変化を検討するには、かなりの例数を蓄積する必要のあることを確認した。また、この年齢区間ではGHは著しい年齢変化を示さないため、来年度以降に急激な変化が期待できる。性ホルモンについては縦断的に1月に1回の割合で血液を採取し、定量データを蓄積している。 以上のような研究システムにより、形態学的資料と生理学的資料が同時に収集され、データを分析することで思春期解発の詳細なメカニズムが明らかになり、ヒトの特徴的な発育パターン進化の解明も可能になると期待される。
|