1 前年度の研究で、陽極化成法によりp-GaAsの微細な三角柱が得られることを確認したが、エッチング領域全域で一様な構造を得ることはできなかった。これは、表面の研摩状態によると考え、新たに(111)面の両面研磨のp-GaAs基板を購入した。条件を変えて陽極化成を行った結果、エッチング領域全域で一辺が30〜70nmの三角柱の微細構造を得ることができた。 2 陽極化成法で作製された試料の円偏光励起発光のスペクトル、および、その偏りのスペクトルを測定した。発光の偏りのスペクトルには、バルク結晶のバンド端より短波長側にピークが見られ、また、偏りの増加も観測された。発光の偏りは、伝導帯電子のスピンの偏り、および、遷移が生じるバンドの組み合わせに依存しており、このピークの出現、発光の偏りの増加は、量子サイズ効果によるバンド端のシフト、および、価電子帯分離を表していると思われる。 3 偏極電子源陰極の偏極度を制限するスピン緩和時間を求めるためにパルスレーザーとストリークカメラを用いて、円偏光励起発光の時間減衰特性を測定した。試料としてまず、歪み格子GaAsを用い、スピン緩和時間の温度依存性を測定した。その結果、スピン緩和が交換相互作用を伴う電子・正孔散乱によることを明らかにした。ついで、陽極化成法によって作製した量子細線構造のp-GaAsのスピン緩和時間を測定した。陽極化成をしていない基板と比較すると、伝導帯電子のライフタイム、スピン緩和時間とも増大していることが分かった。前年度に作製した光相関のための光学系を用いて、ポンププローブ法によって伝導帯電子のライフタイム、スピン緩和時間の測定を試みたが、陽極化成した試料に対しては、はっきりとした信号波形を得ることができなかった。
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