1.量子細線構造のGaAsが高偏極度・高効率偏極電子源陰極として提案された。(111)面の両面研磨のp-GaAs基板に対して、陽極化成法によって量子細線構造の作製を試みた。フッ酸水溶液濃度25%、電流密度150mA/cm^2、通電時間2分のときに、最も微細で一様な三角柱構造を得ることができた。三角柱の1辺の大きさは40〜90nmの範囲に分布していた。円柱モデルで近似して、バンド端シフト、価電子帯分離を検討した。 2.陽極化成法で作製された試料の円偏光励起発光のスペクトル、その偏りのスペクトルを測定した。発光の偏りのスペクトルには、バルク結晶のバンド端より短波長側にピークが見られ、また、偏りの増加も観測された。発光の偏りは、伝導帯電子のスピンの偏り、および、遷移が生じるバンドの組み合わせに依存しており、このピークの出現、発光の偏りの増加は、量子サイズ効果によるバンド端のシフト、および、価電子帯分離を表していると思われる。 偏極電子源陰極として作製した試料のスピン緩和時間を求めるためにパルスレーザーとストリークカメラを用いて、円偏光励起発光の時間減衰特性を測定した。試料として、まず、歪み格子GaAsを用い、スピン緩和時間の温度依存性を測定した。その結果、スピン緩和が交換相互作用を伴う電子・正孔散乱によることを明らかにした。ついで、陽極化成法によって作製した量子細線構造のp-GaAsのスピン緩和時間を測定した。陽極化成をしていない基板と比較すると、伝導帯電子のライフタイム、スピン緩和時間とも増大していることが分かった。さらに、ポンププローブ法によって伝導帯電子のライフタイム、スピン緩和時間の測定を試みたが、陽極化成した試料に対しては、はきりとした信号波形を得ることができなかった。
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