研究概要 |
本年度の主要な研究成果を下記に述べる。 1 Si^<2+>, Pb^<2+>などの不純物がなくても光誘起磁気効果が生じることが分かった。これまで光誘起磁気効果が観測された試料は,多少なりともホストと異なる価数を持つ不純物イオンを含んでいた。そのためこれらの不純物が光誘起磁気効果を起こす原因として考えられてきた。ところがこのような不純物を含まない試料で非常に顕著な光誘起磁気効果を見出したということは,必ずしも不純物が原因とは限らないことを示している。すなわち不純物を含んだ試料の場合も,FZ-YIGの時と同様に酸素欠陥が原因となっている。 2 低温で光を照射すると透磁率実部の低下ばかりでなく,光照射後温度を上げていく過程で透磁率虚部のピークならびにディスアコモデーションが観測されることを見出した。光照射によって透磁率が低下する現象はこれまでも知られていたが,後の2つは始めて観測されたものである。虚部のピークは実部の変化と表裏一体となっているものだが,光誘起ディスアコモデーションというのはこれらとは独立の現象で,特に新しいものといえる。 3 およそ800nm以下の波長の光であれば,光誘起磁気効果を起こすことが分かった。これから励起エネルギーは1.6eVと求められる。また光吸収係数に対する光照射効果でも類似の波長依存性を観測した。白色光を照射したとき,900nm付近を境にして,短波長の光に対する吸収係数は減少し、長波長の光に対しては増加する。また850nm以下の光を照射したときは,短波長側の吸収係数は減少するが,1293nm以上の光では増加する。これらの光学特性の変化は磁気特性の変化と対応するものと考えられる。 4 磁化緩和時間が増大するためにμ′が減少し,μ″T曲線にピークが現れるようになる。一方,電子の抜けた酸素欠陥は動きやすくなり,ディスアコモデーションの原因となると考えた。また,室温まで温度を上げていくと励起電子は基底状態に戻るが,酸素欠陥は斥力型のポテンシャルを持っているために,途中の温度で中間状態をとると考えられる。高温側のディスアコモデーションはこの中間状態によるものとして説明した。さらにこのモデルを基に透磁率の照射時間変化,温度変化を計算し,実験結果との良い一致をみた。そして酸素欠陥の障壁の大きさを0.3eVと見積もった。 5 磁壁易動度緩和時間を取り入れたモデルで,YIGの光誘起ディスアコモデーションの振る舞いを現象論的に説明した。通常ディスアコモデーションの解析にはRichter関数を用いるが,それでは緩和時間に非常に大きな分布を仮定しなければならず,また測定周波数依存性や透磁率虚部を扱うこともできない。そこで,消磁後に磁化緩和時間が時間変化すると考えてモデルを作ることにより、単一の緩和時間で実験結果を再現し,さらに周波数依存性やμ″-t曲線に極大が現れることなどを説明することができた。
|