半導体表面の構造相転移やエピタキシャル成長と関連した表面電気伝導の変化を調べるためには、基盤と絶縁された半導体薄膜を作製する必要がある。本研究では、Si(111)基盤上でのCaF_2絶縁体膜の成長、さらにその上でのSi薄膜の成長をRHEED、SEM、SAMを用いて研究した。 CaF_2は温度600℃のSi(111)7x7基盤上に、基盤とは反平行の方位でエピタキシャル成長することが確かめられた。結晶性は良く、表面の平坦度も良好である。その上に平坦なSi結晶薄膜を成長させるためには工夫が必要であり、 [1]基盤温度が室温(あるいは低温)の状態で電子線照射を行う。 [2]基盤温度が室温でSiを数原子層蒸着後、600℃に昇温し、蒸着を継続する。 のように、成長温度を成長中に変化させる2段階成長法を用いる必要があることが分かった。Si成長膜の結晶の方位はCaF_2と平行であり、基盤のSiとは反平行であった。ただし、この状態では成長膜の表面にはCaが偏析しており、7x7再配列構造は形成されていない。この表面に、500VのArイオンを入射角30度で照射し、スパッタリングすることで、表面のCaは除去され、Si成長膜の内部にはCaは含まれていないことが、オージェ電子分光法の測定により明かとなった。予備実験としてアニールによる表面からCaの除去を試みた。Siとの反応のために、CaF_2膜が局所的に薄くなったり、消失するのが見られたが、成長膜の結晶は基盤と反平行のままで、清浄表面の再配列構造である7x7構造を形成することができた。今後、イオンスパッタ法を併用した実験を行えば、CaF_2膜を保持したまま、清浄表面を作製することができると考えられる。また、Siを蒸着する前の室温での電子線照射には、Si成長膜の平坦度を高め、SiとCaF_2の間の反応を抑える効果があることが見いだされた。
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