本研究の目的は多結晶チタンの結晶粒を適当な大きさに成長させ、個々の結晶粒への水素の吸着・吸蔵の差異を、走査型電子顕微鏡を用いた脱離イオン像により観察することである。 実験設備に関しては、研究計画調書に記したように、高純度気体を試料室に送り込むガス導入系を作成した。この導入系は250℃まで加熱脱ガスすることができるとともに液体窒素トラップが設けてあり、99.99%水素ガスを使用して試料室にガスを導入した場合、四重極質量分析器による試料室での気体組成変化は水素の増加を除いてほとんど認められなかった。 加熱により結晶粒を成長させる際、不純物として含まれている硫黄の表面析出が起こる。硫黄は水素のチタン内部への侵入を阻止するため、本研究には硫黄を含まない高純度チタンが必要でありジョンソン・マッセイ社の99.99%チタンを使用した。しかし硫黄が表面に析出したため不本意ながら、水素イオンビームによるエッチングもしくは機械研磨により硫黄を取り除き試料とした。 得られた結果、個々の結晶粒による脱離イオン量の差異は認められず、水素拡散の結晶方位による異方性や結晶面による水素吸着の差異は認められなかった。硫黄原子の場合八面体隙間が連なるc軸方向に移動しやすいと考えられるが、原子半径の小さい水素の場合は種々の方位に移動できるためと考えられる。
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