研究概要 |
1994年度においては,まず比較的簡単な微分方程式に対して非線型力学系を解析する方法論の確立を目的として研究を進めてきた.まず数値解の非線型な挙動を定性的に理解するために,それを離散力学系としてとらえ,中心多様体理論を利用した数値解の理論的解析を行った.また数値計算を行う場合に種々の誤差によって生ずる物理的な意味として間違った解(幻影解)の特性を解析する上で,分岐図,アトラクターの表示,近似的リアプノフ指数の計算およびパワースペクトル密度の計算等の非線型力学によるアプローチが有効な方法となることを明らかにした.特に,1994年度に導入したワークステーションにより,偏微分方程式系など,高次元の離散力学系のもつ性質を具体的に調べ,高次元においても幻影解が出現することを明らかにした.また線型安定性解析を高次元系の安定性解析に応用し,一例としてバーガーズ方程式をとりあげ,幻影解が出現する分岐点近傍での無限次元における安定性が線型の拡散方程式の安定性と同値であることを明らかにした.さらにこれらの幻影解の出現は数値スキームや境界条件等に敏感に依存することが示され,線型系では安定なスキームである陰解法においても,非線型常微分方程式系において複雑な構造をもった幻影解が出現することが示された.一方,従来より用いられている風上差分や差分方程式の陰解法における線型化といった具体的な手法が,物理的に正しい数値解を得るうえで有効であることが非線型力学系の解析という立場から明らかにされた.さらに,これらの複雑な解の構造を定量的に評価するために,一般化次元の概念を含む次元解析の手法を応用し解析した.これにより,幻影解のアトラクターとしての一般化次元がパラメータの変化とともに変化することを明らかにした.この手法は実際の流体力学計算結果の解析にも応用し,可視化からだけではわからない流れ場の物理的な差異を明らかにするうえで有効であることが示された.
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