本研究はADIの10^7回を越える領域でのフィッシュアイ疲労破壊機構について検討したものであり、高応答引張疲労試験装置の開発、10^8回までの多数の疲労データの取得、フィッシュアイ破壊した試験片についての破面および表面観察、の3項目を中心に行なった。 開発した疲労試験装置は、負荷荷重精度±1%以内、応答性120〜200Hzの性能を達成した。この装置により、10^8回の試験が6〜10日の短期間で取得可能となった。 S-N曲線は10^6回〜10^7回にかけて水平部を生じた後、さらに長寿命域で再び下方に折れ曲がる挙動を示した。10^6回以下の短寿命域は表面を起点とする破壊であり、10^7回以上の長寿命域は内部を起点とするフィッシュアイ破壊であった。競合リスクモデルによる信頼性解析により、両者の寿命分布特性が全く異なることが示された。 表面観察により、10^7回以上の領域でフィッシュアイ破壊した試験片には表面き裂の停留が見出された。破面観察により、フィッシュアイき裂はこの材料の△K_<th>より小さい△K領域でも進展していることが明らかとなった。特にこの破面には、表面を起点とする破面には見られないオーステナイトとフェライトの微細層状組織の痕跡が強く残されていた。起点の欠陥投影面積から求めた△Kを使い、従来のき裂進展則に基づいて寿命を推定した結果、表面破壊の寿命はほぼ予測できるが、フィッシュアイ破壊の寿命は実測値よりはるかに小さくなった。 以上から、ADIにおける表面破壊からフィッシュアイ破壊への移行は表面き裂の停留によるものであること、フィッシュアイき裂はかなり低い応力でも停留しないこと、フィッシュアイ形成には表面き裂とは異なる破面形成機構が存在することなどが明らかとなった。特にフィッシュアイき裂進展は従来のき裂進展則から類推されるより、はるかに低速である可能性が見出された。
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