研究概要 |
まず,高周波マグネトロンスパッタリング法を用いてアルミナ薄膜をガラス基板上に形成し,薄膜性状の微視的観察,超微小ダイナミック硬度測定ならびに3点曲げ試験によってスパッタリング薄膜の機械的特性の評価を行った.今回の成膜条件としては,基板の加熱は行わず,高周波電源出力,および雰囲気ガスのアルゴンの圧力を変化させて,薄膜特性の成膜条件に対する依存性を明らかにした.高周波電源出力を小さくし,雰囲気ガス圧を高くすると,巨視的な膜面の性状は荒くなり,硬度および曲げ強度が低下することがわかった.成膜されたアルミナ薄膜はアモルファスになっており,X線による応力測定ができなかったため,圧子の押込み荷重を変化させることにより微視的な応力勾配を推定した.押込み荷重が大きくするにつれて,すなわち押込み深さが深くなるにつれて硬度は小さくなり,膜内部方向に向かって応力が引張側になることが推察された.また,曲げ強度に関しては高強度側と低強度側とで成膜時の欠陥形成に関連すると考えられる破壊形態の相違が認められた. つぎに,スパッタリング薄膜の成膜過程の微視的構造を解析するにあたっては,本年度購入したパソコン上で作動する分子動力学シミュレーションコードを構築し,計算機のダウンサイジングの可能性を模索した.解析では,2次元の剛体球モデルを採用し,スパッタ過程におけるセラミックス分子の積層構造を明らかにした.実験における成膜条件との対応に関しては,電源出力を大きくすると,スパッタ粒子のクラスタが大きくなるという経験的知見に基づいて,解析では剛体球の寸法を大きくすることにより対応させた.その結果,スパッタ薄膜の見かけの充填率が電源出力を大きくすると高くなる,すなわち膜の変形抵抗が大きくなることがわかった.これにより,電源出力が大きいほど硬度が大きくなるという実験的傾向を定性的に説明することができた.
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