アモルファス金属を機械構造用材料として用いる場合に出会う最大の問題点は、製法上の不可避的制約から大寸法の素材が製造できないことである。本研究では、液体急冷法で作製されたFe系アモルファス薄帯について、エポキシ樹脂系接着剤を用いて多数積層する方法でアモルファス金属のバルク材を作製し、単層材とバルク材のそれぞれについて機械的性質を実験的に調べるとともに、単層材とバルク材の強度特性の力学的関係と信頼性評価法に関する検討を加えた。 本研究で得られた成果を要約すれば、以下のとおりである。 (1)常温から300℃までの温度域において、本材料の引張強度の分布特性は温度に依存せず共通の母集団分布に支配されることがわかった。また、その分布形としては3母数ワイブル分布の適合性がよく、相関係数法により容易に母材が推定可能である。 (2)400℃付近で結晶化が局所的に始まり強度のばらつきが著しく増大し、500℃では結晶化が完了して強度分布が低強度側にシフトしてばらつきは減少する。400℃における分布特性はアモルファス支配成分と結晶支配成分からなる混合分布によりよく説明できることがわかった。 (3)複合材の引張強度はアモルファス合金の複合枚数のみに依存し、接着剤は負荷を分担せず各薄帯の荷重分担を均一化させる接着法を確立した。すなわち、アモルファス合金の複合化による強度低下は起こらず、機械構造用材料としての有用性が確認されたことになる。 (4)片振り引張り荷重下で本材料の疲労強度特性を調べた結果、通常の金属材料に比較してばらつきが大きく、機械構造用材料として利用する場合は特に寿命の分布特性を考慮した安全設計や信頼性評価が必要であることがわかった。
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