セラミックス溶射皮膜の密着性の鍵をにぎるのが、ブラストによる基材表面の粗面トポグラフィーである。しかし、このトポグラフィーの評価は、これまでは表面粗さのみで評価してきたが、著者らの研究でMandelbrotが確立したフラクタル次元が非常に有効であるとの結果が導かれた。特に、ブラストによる基材の粗面過程にてグリットを斜め衝突させることで、これまでの垂直衝突に比較して、高フラクタル次元の界面や特徴的な粗面トポグラフィーが得られることがわかった。本研究で得られた結果を要約すると次のようになる。 1)斜め衝突によるブラスト粗面の平均表面粗さは、衝突角度によらずほとんど一定である。しかし、フラクタル次元は変化する。 2)従って、斜め衝突によって表面粗さが一定でフラクタル次元のみが変化する特殊な粗面を形成することが可能である。 3)グリットの垂直衝突に比較して斜め衝突にて形成した粗面は、75度の衝突角度にて最大のフラクタル次元を持つ。この場合のフラクタル次元は垂直衝突に比較して約5%向上する。 4)これによって得られた皮膜の密着強度増加は、約10%にも達する。 5)衝突角度を変化させたブラストによる粗面形成の結果、粗面トポグラフィーの評価量としての表面粗さは溶射皮膜の密着強度の評価には不適当であり、むしろフラクタル次元を採用すべきである。
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