複雑な内腔形状を有する生体内の微小血管の血流抵抗を正確に評価するために、本年度は、(1)動物を用いた血管内腔形状の計測結果の整理と統計処理、(2)数値シミュレーションによる血流抵抗の流体力学的評価、及び(3)血球が血流抵抗に与える影響の評価を行った。 (1)生体における微小血管内腔形状の特徴:腸間膜の微小血管径の血管軸方向変化の計測、内皮細胞及び平滑筋細胞の核の位置と形状の計測、血管内腔の三次元形態の高分解能測定について、それぞれ実験結果を統計的に処理し、生体における微小血管内腔の幾何形状の特徴を整理した。その結果、微小血管の断面は内皮細胞の核近傍の突出等のため円形からずれており、しかもその形状は血管軸方向に一様ではないことが分かった。 (2)血流抵抗の流体力学的評価:(1)により、内皮細胞の核近傍が血管内腔に突出していることが生体における微小血管の大きな特徴であることが分かったので、核近傍の突出を模するモデル血管を考え、その中の流れ及び血流抵抗を有限要素法により数値シミュレーションを行って求めた。また、微小血管の収縮状態を模するように、血管軸方向に周期的な狭窄部位を有するモデル血管を想定し、その中の流れを同様の手法で解析して、血流抵抗が狭窄の程度、間隔にどのように依存するかについて定量的に調べた。 (3)血球が血流抵抗に与える影響の評価:(2)で解析した複雑な内腔形状をもつモデル血管内に血球が浮遊している場合について、血球の運動と媒質の流れを同時に解析した。得られた血流抵抗は、複雑な内腔形状と血球との流体力学的相互作用の結果、それぞれが単独である場合より更に増加した。このことは、生体内の微小血管内流れにおいて、内腔形状のわずかな凹凸が、血流抵抗の大きな増加に結び付く可能性を示唆している。
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