現在の火花点火機関は、希薄燃焼によりNOxの低減と熱効率の向上(CO_2排気量の低減)を図っているが、より一層の希薄化を制限しているものは、燃焼速度の低下と希薄燃焼限界近くでの点火ミス(失火)の発生である。本研究では混合気自身の燃焼特性を向上させるために、乱れによる燃焼促進効果が最も大きく、かつ希薄燃焼限界が最も低い水素の燃焼特性に着目し、希薄な炭化水素混合気中に水素を少量添加するとともに、さらに酸素を富化し、局所の層流燃焼速度を上げることにより、希薄燃焼限界を拡大することを試みた。実験に使用した燃焼装置は内径が約120mmの球形に近い定容燃焼容器、ファンを回転させることで燃焼室の中心にほぼ等方的な定常乱れ場をつくることができる。所定の乱れ強さで、燃焼室の中心で火花点火し、燃焼実験を行った。 まず、当量比をパラメータとして、水素添加量、酸素富化量をそれぞれ単独に変化させ、層流燃焼速度を計測し、水素添加量ごとに、当量比を横軸、酸素富化量を縦軸とするメタン混合気の場合の等層流燃焼線図を作成した。この線図より、当量比が一番小さく(0.6)、水素添加量、酸素富化量ともになるべく少ない領域で、層流燃焼速度が等しい(15cm/s)混合気を決定した。次にそれぞれの混合気につき、乱れ強さを変化させ、乱流燃焼速度および火災伝ぱ限界を調べた。その結果、少量水素添加(燃料の2割まで)により、乱流燃焼速度が著しく上昇し、乱流燃焼の消炎限界の伸びた。これは水素の選択拡散効果によるものと考えられる。また、酸素を富化した場合、乱流燃焼速度、燃焼限界ともに拡大した。しかし、乱れが弱い領域において乱流燃焼速度の層流燃焼速度に対する比は、酸素無富化の場合が酸素を富化した場合よりお大きいことから、乱流燃焼速度および燃焼限界が拡大したのは、層流燃焼速度が増加したためと考えられ、さらに検討する必要がある。
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