植物体を構成する葉郡間や葉と根の器官相互間、さらには植物集団における個体間のコミュニケーションを関係論的な観点から論じた例はほとんどない。そこで本研究では、昨年度に引続き、環境応答や形態形成における要素間の同調的現象の有無に着目することにより、コミュニケーションにおける「場」の形成過程について検討した。平成7年度交付申請書に記載した研究計画・方法に従い得られた結果は以下の通りである。なお、(1)〜(3)の供試材には主としてインゲン、エンドウなどマメ科の植物を用いた。(1)昨年度試作した3次元振動電極による環境応答計測システムを用いて、根の周りに形成される極微弱な電場が、茎や葉に与えた刺激(光、熱、傷害など)によって変化するか否かを調べたところ、いずれの場合も電場パターンが解体、再構築されることを見出だした。これは根の生長に地上部での出来事が反映されていることを意味するものである。(2)根の細胞内電位や細胞内圧の計測を行い、電場パターンとの関係性を調べた。(3)葉と根のリズム運動を同時計測し、両者が周期約2時間程度で協調的に振舞うことを示した。また、2個体を近接して設置した場合、お互いの根が絡まないように、位相差を伴ったリズムをそれぞれの根先端部が形成することを示した。さらに、集団における動的なコヒーレンシーの有無について調べるため、16個体の幼植物体の根と茎の生長を同時計測できるシステムを構築した。(4)樹木集団において、生体電位変化が同調するグループが形成されることを見出だした。また、不定形細胞塊であるカルス相互間においても寒天培地を介して同様の現象が観察された。(5)以上の結果ならびに昨年度の結果を基に、要素間の同調的現象や外界認識における電場パターンの情報論的な意味、さらにはコミュニケーションの生成ルールについて考察した。また、植物的な環境応答システムモデルの構築も試みた。
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