研究概要 |
針対平板電極系を用い、室温2気圧の重水素ガス雰囲気において、重水素を吸蔵させたパラジウム針からグロー放電による電流を流した。この実験方法はきわめて簡素であるが、電流が針電極先端に集中するため小さい電流で高い電流密度が得られ、ガス密度が高いので電極の表面修飾が不必要であり、電流の脈動が激しく、いわゆる電流のLow-Highモードの繰り返しを自然につくることができるなどの長所を備えている。バラジウム針電極の吸蔵率D/Pdは約0.6程度である。発生する中性子は^3He比例計数管とsingle channel analyzerを含む中性子測定系を用いて計測した。^<252>Cfによる校正から、エネルギー2MV程度の中性子に対する検出効率はおおまかに1%である。バックグランドの中性子計測数25n/時間程度である。37試行中2回過剰中性子の放出を示す結果が得られた。最大過剰中性子の2,700n/5secはバックグランドの9×10^4倍に相当する。試行終了後に光学顕微鏡によるパラジウム針電極先端を観察した結果、中性子の過剰放出が起きた2つ電極の先端部表面のみが黒い付着物で覆われていることが分かった。X線光電子分光装置(XPS)により調べた結果、顕微鏡観察における黒い付着物は炭素であることが判明した。5年にわたり4,000時間を超えるバックグランド計測中でも計測数の大きな変化は1度もないことから、中性子計測系に現れた過剰計数は,外来の電磁雑音や計測系高電圧部の沿面放電に由来する誤動作によるものとは考え難い。また、electro migrationなどによりバラジウム中の不純物炭素が針電極先端に集まることが検討されたが、いずれも多量の炭素検出を説明できる可能性は極めて低いことが分かった。これらの結果から、重水素の吸蔵率がある値以上の場合に、グロー放電に伴うμAオーダーの電流により重水素イオンが移動し、針電極先端部のパラジウム表面近くにおいて重水素原子核が関与する核反応が起こったと思われる。この際、まず、トリチウムやヘリウムのような中間生成物が作られ2.45MeVの中性子が発生し、次に、この中間生成物から炭素が作られたと考えられる。
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