商用周波数で利用できる交流用超伝導線を開発するためには、交流損失の低減化と臨界電流密度および上部臨界磁場の向上が重要な課題である。本研究では、将来実用が期待されフィラメント径0.1μm以下の極細多芯超伝導線について重点的にフィラメント径や線材構造の超伝導性に及ぼす影響を実験的に検討するとともに、物性論的な解析法により上部臨界磁場の線材構造に関する知見を得ることを目的とする。本年度も、直流4端子抵抗法により臨界温度T_cおよび臨界電流密度J_cさらにその温度依存性を測定した。また、フィラメントがサブミクロンサイズの試料を測定し、比較した。これらの結果に基づき、極細多芯超伝導線の特徴を検討した。また、層状超伝導体における各層の諸物性が上部臨界磁場B_<c2>に与える効果を理論的に検討した。以下に、それらの結果を要約して示す。 1.フィラメント径が低下するにつれて一般に臨界温度は下がるが、0.07μm付近あたりから、急激な低下が見られる。しかしながら、同一フィラメント径の試料でも、熱処理を施したものでは遷移温度幅は著しく増大する。また、線材構造の影響も見られ、同一フィラメント径でも、フィラメント間隔がひろがったり、Cuバリアー材の試料になると臨界温度は低下する。 2.0.1μm以下のCuNiバリアー材試料の臨界電流密度は、低磁場では、10^6A/cm^2台の著しく高い値を示すが、磁場依存性が従来線に比較して大きく、磁場上昇と共に急激に低下する。また、強い温度依存性を示す。 3.格子のデバイ周波数ω_Dが異なる超伝導層が交互に積層した超伝導体の上部臨界磁場B_<c2>は、各層のω_Dの比が1からずれるにしたがって、その異方性は増大する。このB_<c2>のふるまいは、BCS結合定数が変化した場合と類似している。
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