本研究は、Si基板上へのInNのヘテロエピタキシャル成長を実現し、その技術をもとに、高効率のInN/Si二接合モノリシックタンデム太陽電池を実現することを目的としている。Si基板上へのInNの直接成長はSi基板表面での非晶質状SiN_xの形成のために困難であることが明確になったことから、バッファ層の導入を検討することとし、バッファ層材料としてSi基板上へのヘテロエピタキシャル成長が実現されているGaAsおよびInPを取り上げた。 (1)GaAs単結晶表面の窒化現象と窒化GaAs上へのInNのヘテロエピタキシャル成長:アンモニア気流中でのGaAs単結晶表面の窒化現象について調べた結果、(111)結晶において500℃以上の温度で結晶表面に六方晶GaN単結晶層が形成されることがわかった。このGaN単結晶層上へのInNの有機金属気相(MOCVD)成長を検討した結果、単結晶InN膜の成長が可能であることが明らかとなった。また、単結晶InNの成長にとって窒化処理が不可欠であることが明確になった。窒化GaAs単結晶上に成長したInN膜は、従来検討されてきたサファイア基板上膜に比べると結晶性の点では若干劣るが、サファイア基板上膜において問題となっている柱状成長が見られず、モフォロジの点で極めて優れたものであることが明らかとなった。以上のことから、GaAs単結晶がInNのヘテロエピタキシャル成長用基板として使用できるばかりでなく、InN/GaN/GaAs/Si構造を採用することによりSi基板上へのInNのヘテロエピタキシャル成長が実現できることが明らかとなった。 InP単結晶表面の窒化現象と窒化InP上へのInNのヘテロエピタキシャル成長:InP基板表面の窒化によるInN層の形成をねらいとして、InP単結晶表面の窒化現象について検討した。その結果、InN層の形成は確認されず、さらに窒化InP上へのInNのMOCVD成長では多結晶InNが成長することがわかった。これらの原因は、窒化InP表面にはInNよりもむしろPNが優先的に残存しているためであると考えられる。
|