研究概要 |
トンネル型冷陰極は電子の放射電流密度を大きくできること、構造が簡単で大面積化が可能であること、信頼性が高く寿命が長いことなど多くの利点を有している。しかし、現在のところ放射効率が低く、この原因の一つとしてトンネル絶縁層中での電子の散乱によるエネルギーの分散・減衰が考えられる。本研究では絶縁層を従来の非晶質から単結晶にすることにより電子の散乱を減らし、放射効率の向上の可能性を調べている。本年度は次のような検討を行なったが、その結果を以下に示す。 1.フッ化物結晶性絶縁膜を用いたMIS型トンネルエミッタの試作とエミッション測定 真空蒸着法を用いて、60nm-120nmの厚さのBaF_2膜をn-Si(111)基板上に堆積温度を室温から700℃まで変化させて形成した。その結果、X線回折の測定から600℃以上で基板と同じ(111)方位に極めて良好に配向した絶縁膜が得られた。また、この絶縁膜はSEMによるモフォロジー観察の結果、昨年度報告したSi(100)上のBaF_2(111)膜と比較して表面が平坦で、しかも粒子状の析出物が見られずトンネル絶縁膜として優れていることがわかった。この絶縁膜上に厚さ10nmのAu膜の上部電極を蒸着し,放射面積1mm×1mmのMIS型トンネルエミッタを作製した。エミッションの測定は10^<-6>Pa.以下の高真空中で行なった。その結果、Auの仕事関数以上のダイオード電圧(5.2V)でおよそ2pA/mm^2の放射電流が観測された。現時点ではこれ以上のダイオード電圧を印加すると絶縁破壊するため、正確なエミッション電流が測れなかったが、今後は熱処理等の検討により絶縁耐圧の向上を図ることが必要であろう。 2.絶縁層での電子の輸送についての検討 トンネルエミッタでは電子が絶縁層の中を加速されて通り抜けて行く際に散乱を受け、エネルギーの減衰を生じる。この絶縁層の伝導帯における電子の輸送課程を検討し、結晶性絶縁層の優位性を電子が衝突散乱しエネルギーを失う過程をモンテカルロ法を用いた計算機シミュレーションにより示すことを試みた。簡単な電子-原子衝突散乱モデルを用いて、非晶質中と結晶中との電子輸送過程を比較した。
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