初年度には、塗布膜からの鉄拡散技術によってπ/n^+ダイオードを試作評価し、さらに、これを展開した選択的補償反転法により、計画したπ/n^+/π構造を作製することができた。この過程で、ドナー不純物を補償反転する鉄拡散処理の解析-特に、低濃度化-が必要と考え、鉄拡散GaAs中の鉄濃度分析を行なった。拡散温度650-900℃で10^<15>-10^<17>/cm^3台の濃度をもち、従来にない均一な分布をした鉄アクセプタが導入できることが判明した。この結果は論文にまとめ、応用物理学会欧文誌に掲載された。 次に、バルク結晶とエピタキシャル結晶を用いて鉄濃度を下げたダイオードを試作し、その電流電圧特性を評価した。このpn接合の特性は目的とするデバイスの核心となる部分である。その結果、バルク結晶を用いた接合において、1×10^<-9>A/cm^2(@V_r=10V)の低い逆方向漏れ電流密度と500V以上の高耐圧が実現できた。一方、後者では逆方向漏れ電流はむしろ前者の場合より多くなった。これより、鉄拡散pn接合の特性は出発材料のGaAsの結晶性に大きく影響されることが判明した。 これらの結果をふまえ、表面に櫛形電極をもつπ/n^+/πメサ構造の光可変抵抗素子を試作し、層構造へのバイアス電圧印加と光照射による表面π層の電気伝導度の変化を評価した。厚さ1.0μmのπ層表面に間隔10μmの一対の櫛形電極を形成した構造である。この素子で、バイアス(3V)印加後の10倍以上の高抵抗化と微弱レーザ光照射による回復が確認できた。逆方向漏れ電流は低い(10^<-12>A台)が、電荷蓄積による高抵抗化の持続は数分間であり、現状ではダイナミック回路への応用が考えられる。 応用範囲を広げるには、漏れ電流をさらに低減して高抵抗化の持続時間を延ばす必要がある。また、本素子の構造は高速光検出器として応用できる可能性があり、今後高速応答特性や感度について検討する予定である。
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