溶融石英ガラスに3kV/mmの電界を印加し、260℃に昇温すると、石英ガラス中に永久双極子が誘起され、非線形光学相が発生することを確認した。すなわち、1μmの波長のYAGレーザ光を照射すると、0.532μmの第二高調波が発生し、その角度依存性から、非線形光学定数χ(2)の大きさは、0.3pm/Vであり、さらに非線形光学相は正電極側の60μmの薄い層と成っていることを見いだした。溶融石英ガラスと比べると、欠陥も不純物も少ない合成石英ガラスの場合には、第二高調波の発生は観測されなかったが、試料にX線を照射した後で、電界分極を行うと、溶融石英ガラスの場合と同程度の非線形光学相の発生を観測した。さらに、X線照射面を正電極に接するようにして分極した場合と、逆に負電極に接するようにして分極した場合では、非線形光学定数が大幅に異なり、前者の方がはるかに大きい値であった。石英ガラス中へのX線の侵入長は、たかだか100μm程度であることと、非線形光学層の厚さが60μmであることから、X線によって導入されたある種の欠陥が、非線形光学相の発生に不可欠であるとの結論を得た。従来の知見を合わせると、Non-Bridging Oxygen Hole Centerが永久双極子を生成する中心となっているものと考えられる。このような、非線形光学相の発生した石英ガラスを電子顕微鏡内に置き、電子線を照射すると、非線形光学相が消失することを確認した。非線形光学相の消去には、260℃程度に昇温することも有効である。
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