金星の大気中で屈折した電波の位相と振幅から、従来の探査では得ることが困難であった高度35km以下の金星大気に関する知見を得る手法を確立することが本研究の目的である。従来の電波オカルテーション探査との決定的な違いは、本研究では金星表面で一回反射した電波を使うことにある。これにより屈折だけでは濃密な大気に阻まれて大気上層にしか入り込めなかった電波が原理的には金星表面まで入り込んだ後に再び大気外に出ることが可能となり、それを応用した観測が考えられる。具体的には位相情報から大気の屈折率を、またそれに振幅情報を組み合わせて大気組成の情報を得ることになるが、われわれはそれを、i)位相から電波の屈折角を求める、ii)屈折角から大気の屈折率を求める、iii)屈折率と振幅から大気組成情報を抽出する、iv)ii)とiii)の情報から大気温度気圧を求めるという4段階に大きく分けて研究を進める。このうち今年度は金星表面で反射する経路についてi)、ii)を求めるアルゴリズムの開発に成功した。これにより本研究が原理的にも可能であることがほぼ明らかになり平成7年度は引き続きiii)〜iv)についてのアルゴリズム開発及び計算機による金星探査シミュレーションを行い最終的にこの手法の有効性を評価する。そこでは現実の観測を念頭に置いて、これまで探査機により集められた金星表面データを参考にして電波の後方散乱を考慮る必要があるが、そのために米国の探査機Magellanが撮影したレーダーマッピングのデータを使用する(国際協力)。表面データからは、任意の角度から電波が入射した場合の後方散乱電波の位相・振幅特性を明らかにし、本研究を推進するに当たっての基本的パラメータとする。
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