放射測温法には計測精度に関する大きな問題点がある。その1つは、測定対象の放射率が状況によりさまざまに変化すること、もう1つは測定対象以外の周囲の熱源(たとえば炉内)の放射がセンサに入射する背光放射雑音やセンサまわりの測定系の温度変動による雑音が測定光学系で反射してセンサに入射するいわゆる迷光放射雑音が存在することである。 本研究は、上述した2つの本質的な問題点に加え、常温付近にある対象物体の温度を精度よく計測する手法を見いだすことを目的としている。したがって、本研究は背光および迷光放射雑音にみちた環境での非接触温度計測法の研究である。また常温からの放射量はきわめて微弱であるため、雑音に埋もれた信号を感度よく検出するためのセンサとセンサ周辺の光学系受光構造をも考察対象とすべき研究である。 本研究では金属を測定対象とし、2つの方向からのアプローチにより、研究課題の基本的な問題点を解決した。1つは、その表面に関する光物性の特徴を抽出し、上記背光雑音を徹底的に除去する基本的な計測原理を考案し、これを実現する装置を開発し実験を進めた。もう1つは、センサに入射する迷光雑音を最小ないし補正する受光システムについて考察し、具体的な放射計を設計試作した。 これらの研究により、垂直放射率が0.1の低放射率金属を常温付近から計測できる放射測温法とその計測システムの基本的構成を提案した。本研究は、さらに金属とその酸化の進行に伴う放射率の変化をも同時計測する方法も見出した。 今後の方針としては、本研究で得た手法を実用に供すること、また研究の過程で得られた多くの知見、たとえば金属酸化膜成長に伴う放射率の変化(方向特性、偏光特性、波長特性など)を利用した新しい放射測温法を展開すること、放射率に関連して酸化膜成長を同時測定する可能性の追求など、新たな研究課題に取り組むことなどがある。
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