研究ではまずこれまでの文献により曝気循環の藻類繁殖に与える影響として次の点を確認した。1)表層の混合層厚が拡大し藻類に対する光制限効果が働く。2)夏季に深層のpHの高い水が表層に掲水され優占藻類が動物プランクトンの餌になりやすい緑藻などに変化する。3)表層水温が低下し有光層内における藻類増殖速度が低下する。4)深層の貧酸素化を解消する。次に、1)3)4)の検証のための数値モデルを作成した。モデルはDYRESM型の概念に基づいた貯水池モデル、double plumeモデルを基本にした曝気循環モデル、プランクトン増殖モデル、栄養塩モデルからなる。特に藻類については、藍藻、緑藻、珪藻、ベン毛藻のレベルで種の区別が可能である。このモデルを用いて、まずいくつかの現場実験の再現計算を行い、成功例、失敗例についてその機構を明らかにした。次に、いくつかの条件を様々に変化させたシミュレーションを行って、気象条件、流入栄養塩条件、曝気循環の強度・運用条件との関係から、藻類増殖抑制が可能な場合、不可能な場合を検討した。さらに、温度躍層の破壊を最も効率的に行う条件について、温度躍層強度、曝気循環との関係から定量的に求めた。これによって、従来の運用法は必ずしも効率的なものでなく、エネルギー効率を数十倍に高める運用形態が提案された。 以上より、曝気循環による藻類増殖抑制の機構は、物理化学的条件を変化させ優占藻類を変化させ食物網の形態を変えることにより藻類のバイアマスを抑えるというもので生態学的にはボトムアップ効果であるという点が明らかになった。そのため、この機構をより詳細に把握するために、いくつかの湖や貯水池において調査を行い、データの集積、解析を行った。その結果、この構図は単に藻類と、物プランクトンの間の関係だけでなく、動物プランクトン同士の捕食-被捕食関係、より高次の捕食者の重要性が明らかになった。
|