本研究は、亀裂堆積岩の山体への雨水浸透の仕組みを、和歌山県日高郡由良町にある山腹斜面に掘られたトンネルへの湧水(水量と水質)及びトンネル内の炭酸ガス濃度の測定を通して、明らかにすることを目的としている。得られた結果を要約すると、以下の通りである。 1.降雨によって、湧水流量が基底的な流出成分によってのみ形成される場合、流量増加の開始は既に増加を始めていた炭酸ガス濃度がピークを示す時刻に一致する。また、降雨によって速い流出成分が生起する場合、ガス濃度の増加は逆に流量増加より遅れて現れるが、そのピークは、流量ピーク後の低減段階で、その変化が緩慢となる時点で生起する。 2.上記した濃度がピークを示す時刻は、当該降雨によって発生した遅い浸透成分が流出に寄与を始める状況であることが解析できた。このことは、比較的地表近くの岩盤中で、植生細根の呼吸や有機物の分解により発生する高濃度炭酸ガスが、小さな亀裂部を移動する浸透水によって下方に輸送されることを示唆する。また、降雨によって速度の大きな浸透成分の生起による流量増加も観察されたので、浸透場には二つの経路(fissure flowとmatrix flowの生起場に対応)が存在するという状況が保証された。さらに、当該の降雨によって発生したmatrix flowの流出への寄与の始まりの時刻を知る上でも、ガス濃度変化の情報は有用である。 3.ある測点の湧水の導電率は炭酸ガス濃度の変化と良く対応することが見いだされたが、これは岩盤中の同ガス濃度の増減に伴って浸透水中のHCO_3^-濃度が増減した結果だと結論できた。また、基岩の溶出実験を通して、matrix floeの流出が顕著な際(低流量時)の湧水の水質は、亀裂堆積岩の浸透水による溶出によることが確認できた。
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