オ-ディトリウムに設置されるバルコニーは、音響的にはホールの一体空間を阻害する空間となるため、バルコニー下部空間は、“低音がこもる"“音が速い"“響きが足りない"というような音響的問題点が指摘されている。しかしながら、これまでの音響設計技術では、どのような高さや奥行きのバルコニーが音響的に望ましいという問題に答えることができない。そこで本研究は、オ-ディトリウムにおけるバルコニーの形態(高さや奥行き)とバルコニー下部空間における初期反射音の特性の関係を解明し、初期反射音がもたらす聴覚的効果(“拡がり感"などの空間的印象)を明らかにすることによって、バルコニーの高さや奥行きをどのようにすれば“音のよい"バルコニー空間が得られるかについて研究し、建築設計に利用できるような指針を得ようとするものである。 研究の初年度である本年度は、実際のオ-ディトリウムのバルコニー下部空間の音響特性を実測調査し、バルコニー下部空間では、特に上方からの初期反射音の不足が特徴的であることが明らかにした。そして、実測で得られた初期反射音特性をシミュレートした模擬音場を用いた音響心理実験から、上方からの初期反射音の不足は“音に包まれた感じ"を阻害することを検証した。このような結果から、“音のよい"バルコニー空間を実現するためには、上方からの初期反射音が不足しないような形態にすべきであると結論した。 次年度は、本年度の結果を踏まえて、“音に包まれた感じ"を阻害しないためには上方からの初期反射音がどれくらい必要であるか、そしてそれを確保するためにはバルコニーの高さや奥行きはどの程度にすべきかについて検討し、結果を建築設計に利用できるようなチャートに提示する計画である。
|