オ-ディトリウムにおけるバルコニー下部空間は “低音がこもる"“窓を通して聴いているような感じがする"“響きが足りない"というように定性的には好ましく音場といわれているが、バルコニー下部空間の音響性状をバルコニー形態との関連性から捉えデータはほとんど見あたらず、またバルコニーを設ける場合にどのような形態にすればよいかの音響設計指針もない。そこで、本研究はオ-ディトリウムにおけるバルコニー下部空間の音響特性を明かにし、バルコニーを設置する際の設計指針を得ようとするものである。 平成6年度は、オ-ディトリウムのバルコニー下の音場を把握するために、実際の5つのホールにおいて初期反射音の方向情報に着目した音響測定を行い、バルコニー下部では、客席主空間に比べて上方からの初期反射音が著しく少ないこと示すとともに、バルコニー下で実測したインパルス応答をシミュレートして作成した刺激音(音楽信号)を用いた音響心理実験を実施して、上方から到来する初期反射音が少なくなると「音に包まれた感じ」が阻害されることを検証した。 平成7年度は、音場の聴覚印象が阻害されないためには、上方からの初期反射音の割合の低下はどの程度まで許されるかを明らかにするために、さらに音響心理実験を実施して「音に包まれた感じ」の弁別閾を測定した。さらに、3つの基本形態のオ-ディトリウムについて、バルコニー形態と初期反射音特性(主に方向特性)との関連をコンピュータシミュレーションによって検討した。そして、音響心理実験から得られた「音に包まれた感じ」の弁別閾をコンピュータシミュレーションの結果から導出された初期反射音特性とバルコニー形態の関係に適用することによって、バルコニー下でも客席主空間における「音に包まれた感じ」と同様の聴感印象を得るためのバルコニーの形態は、奥行きが高さの0.7倍程度以下でなければならないという結論を得た。これを、オ-ディトリウムのバルコニー形態の音響設計指針としたい。
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