建築環境システムのような熱現象を伴うシステムの評価は、エネルギーの保存則とエントロピー増大則を両立させて行なう必要がある。本研究では、自然暖房・屋根散水・樹木による日射遮蔽などの建築的環境調整の技術を取り上げ、そのエクセルギーの投入・消費、エントロピーの生成・廃棄の一連の過程(エクセルギー・エントロピー過程)を数学的モデル化するための検討を行なった。それらの結果、以下の成果が得られた。 1.太陽エネルギーの中のエクセルギーの場合は、快晴時において直達日射の場合約90%、天空日射の場合約80%であり、日射エクセルギーは非常に質の高いエンルギーである。 2.実効放射のエクセルギーは常に大気上層から地表に投入され冷エクセルギーである。日本の夏季における温湿度条件では1W/m^2程度で小さい。 3.建築の周囲の外気を環境と捉えた場合、環境と異なる温湿度の湿り空気は、温または冷エクセルギーと湿または乾エクセルギーとをもつ。また、液体水は、温または冷エクセルギーと湿エクセルギーとをもつ。水の蒸発作用に伴う冷却は、液体水のもつ湿エクセルギーの一部が消費され、生産される冷エクセルギーを消費して行なわれる。 4.実測値から逆算して、実測対象としたカツラの木の消散係数は0.1〜0.3程度となった。また、推定した日射量を用いて樹木により日射遮蔽された場合の室温を計算したところ、実測値と概ね一致した。これにより、樹木による日射遮蔽のエクセルギー・エントロピー家庭を計算するための足掛かりが得られた。 5.1.から4.が関係する建築的環境調整の技術はいずれも日射エクセルギーの投入と消費・エントロピーの生成と廃棄により成立しており、建築外部環境に備わっている宇宙へのエントロピー廃棄のメカニズムを上手に利用する技術であることがわかった。
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