本年度は浴室の環境・設備の実態調査を行った。調査対象者は福岡市とその近郊の居住する高齢者30名(平均年齢75.6歳)、若年者32名(21.7歳)であった。調査対象者の各家庭を訪問し、浴室の設備(特に手すり、滑り止めなどの危険防止策、段差など)を実測し、入浴習慣、浴室環境に対する要望等の面接調査を行った。夏期(7月〜8月)、秋期(10月)及び冬期(1月)の各期間連続して3日間、居間、脱衣室の室温を記録した。また、入浴時の湯温を測定させた。その結果、浴室設備はわずかに高齢者のほうが整っていたが、若年者と比較して大差なく、高齢者で危険防止策がなされているわけではなかった。脱衣室には冷暖房が設置されている例は皆無であり、冬期には10℃以下の室温の例も認められた。脱衣室の室温と入浴時の湯温との間には高齢者、若年者ともに有意な負の相関があり、脱衣室温が低下するに従い湯温は高くなる傾向にあった。特に、高齢者で相関が高かく、冬期には45℃を越える湯温の例も認められた。特に冬期において湯温が高くなるのは、脱衣室温の低さに起因する身体の冷えを、高い湯温への入浴により補償するものであることが示唆された。高温への入浴は身体負担が大きく、湯温を低下させるためにも脱衣室の暖房の設置が望まれる。また、高齢者では脱衣室・浴室の寒さを訴える割合が低く、温度感受性の低下も認められ、特別な配慮の必要性が示唆された。
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