本研究は、痴呆性老人介護施設における痴呆性老人の空間認知の状況を把握することにより、痴呆性老人にとって認識しやすい施設空間のあり方を探ることを目的とした。 1)平成6年度 (1)全国の特別養護老人ホームを対象とした郵送アンケート調査により、介護現場で空間認知を容易にするためのしつらいや工夫の現状を把握し、多くの示唆を得た。(2)特別養護老人ホーム2施設において痴呆性老人14名を対象として、質問調査と行動観察調査を行い空間認知機能の残存状況をとらえたところ、医学的痴呆評価と空間認知能力は一致しない、自分の居室等をある程度は把握している、空間認知の手がかりは様々であった。 2)平成7年度 設計者が空間的な分節化を意図した特別養護老人ホーム2施設において、入居者の生活領域形成状況を観察調査した結果、生活領域形成に4つの類型を見いだした。さらに、痴呆性老人の居室探索行動を追跡調査して、居室群のしつらい、居室位置、生活拠点からの方向、名札や色彩などの目的などを居室認知の手がかりとしていることが判明した。 3)平成8年度 (1)特別養護老人ホーム2施設99名の入居者について、生活状況と心身状況の入居時からの経年変化を調査した結果、居室位置の把握状況が比較的よい、目印のうち名札の把握状況がよい、ADLの低下に伴って居室把握機能が低下する、などをとらえた。(2)同じ2施設において、2〜3年にわたって継続的に観察できた16名の痴呆性老人について、居室把握状況の経年変化を検討して、変化の要因と思われる事項を整理した。 3年度にわたるこれらの研究をもとに、居室の分かりやすさの条件を考察し、建築計画上の指針を得た。
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