研究概要 |
景観生成を、建築家の制作とその作品が成立する環境の建築化の2契機による同時的現象として捉えるため、本年度は具体的な史料収集と整理を行った。すなわち、建築家ル・コルビュジエの全作品について敷地選定と建築的原型(プロトタイプ)の分析を、すでに購入済みのArchive,Garland pub。& Fondation de Le Corbusier,全32巻及びOeuvre Complete,pub。par W。Boesiger全8巻から網羅的に行い、景観生成に関して幾つかの有意味な類型を抽出した。それは、1。建築的経路(ル・コルビュジエの表現では「建築的散歩」)のトポロジカルな領域のヴェクトル的形成、2。ピロティや屋上庭園による浮遊する水平面の設定、3。直立し上昇する垂直運動であり、作品の形態がこれらの動きを記号的に表象する。他方、空間的意味としては、1。無限への到達、2。ウェルギリゥス的田園詩の夢想、3。洞窟(グロッタ)的内部性、4。実存的奥行きとしての「海」などの意味的な空間表象の類型が幾つか見分けられた。それらの類型を具体的に代表する事例としてサヴォワ邸、マルセイユ住居単位、ロンシャン礼拝堂、ラ・トゥーレット修道院が注目され、これらの作品に関して、ル・コルビュジエ財団(在パリ)から、敷地・ブロック配置図のコピー、関連の手記書簡類のコピーを購入し、その内容に従って解読・整理・分類作業を行っている。 また西洋の景観視を分析するうえで有用な西洋近世の都市に関する地誌史料を購入している。最後に、景観生成の現象を理論的に記述するための理論研究が、建築・場所論の一環として行われ、その一端は、研究代表者の訳書、C。ノルベルグ・シュルツ、『ゲニウス・ロキ』、住まいの図書館刊、1995の訳者解説に表しておいた。 ル・コルビュジエの制作の具体例の分析から、景観生成の理論的記述を試みることが来年度の主要課題である。
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