研究概要 |
ル・コルビュジェの全作品から、とくに場所論的に有意味と判断した3作品、すなわちVilla Savoye(1929),Chapelle de Ronchamp(1951),Couvent de la Tourette(1957)に注目して、これらの設計から建設に至る過程に関する原史料の解読を行い、データ・ベース化した。これから収集したスケッチ、図面等、製作史料の時系列的順序を整理し、ル・コルビュジェの制作意図を少なからず明らかにできた。すなわち、景観生成を、制作とその作品が成立する環境の建築化の2契機による同時的現象として捉えるため、全作品について敷地選定と建築的原型(プロトタイプ)の分析を網羅的に行い、景観構成に関して幾つかの有意味な類型を抽出した。すなわち、1.建築的経路(「建築的散歩」のトポロジカルな領域のヴェクトル的形成)、2.ピロティや屋上庭園等の浮遊する水平面の設定、3.直立し上昇する垂直運動であり、作品の形態がこれらの動きを記号的に表象し始動する。地方、空間的意味としては、1.無限への到達、2.ヴェルギリウス的田園詩の夢想、3.洞窟(グロッタ)的内部性、4.実存的奥行きとしての「海」などの意味的な空間表象の類型が幾つか見分けられた。それらの類型を体現するする代表的事例として上記の3作品やマルセイユ住居単位が抽出できた。この成果から、ル・コルビュジェの制作課程を、素材(質料的)と形相(量的・イデア的)のarchitypeから、存在の生成の諸相を通して「肉化incarnation」し、構造化して、現実的形態となって現象し、意味を表し、建築的風景となって現成する諸様態を、archeからtelosへの動態として記述した。建築作品の制作、建築的環境の生成、建築的風景の現成から、そうした一連の動態の「おいてある」ところの「場所」を、主題化することを、Genius Lociの観念、プラトンのkhoraおよび「西田哲学」における「場所」的論理の解釈によりながら試み、有意義な成果が得られた。
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