本研究は本年度新たに着手した新しい研究であるが、パウル・ティリッヒによる建築論ならびに芸術論に関する文献はおおむね入手し、精読し、おおかたの邦訳を完成した。彼の「文化の神学」に関する諸著作もかなり収集し、読解中である。その結果二編の研究報告を執筆したが、それらにおいては、「聞く」ことを重視するプロテスタントにおける「見る」ことの意義を明らかにしたあと、まず、ティリッヒの実存的生涯を建築論的に素描した。そしてティリッヒの建築論の根底をなす「文化と宗教」についての概念の詳細な検討をつづけているが、とりわけ、「宗教は文化の内実(実質)であり、文化は宗教の形式である」というように要約されうる「宗教と文化の本質的相互帰属の原理」を諸著述や諸文献によって詳細にあとづけた。そして「宗教とは、究極的にかかわっていること、すなわち究極的にかかわっている関心を抱くことである」とするティリッヒの実存的態度について詳細に追跡した。 さらにまた、ティリッヒの建築論の全容を概観して「パウル・ティリッヒと建築論」と題する九州大学最終講義を行った。それはつまるところ、聖化の原理と誠実の原理の終局的な統合としての「聖なる空虚」ということであろう。ティリッヒの建築論そのものと神学的根底との総合的な解釈は今後の課題である。 一方、近代教会建築家ピエトロ・ベルスキ論やノルベルグ=シュルツの教会建築論もおおむね入手し、精読を進めている。また、比較的近年に注目すべき教会堂を建設した複数のプロテスタント牧師と面談し、教会堂観を拝聴した。
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