教会堂のもつ意味を重視したプロテスタント神学者パウル・ティリッヒは多数の論文を発表し、講演を行っているが、彼の建築論・芸術論の全体を明らかにするために、本年度は三つの研究報告を発表した。そのうち二報告は、昨年度の二報告とともに、ティリッヒの文化の神学における基礎概念を綿密に調べて整理したものであり、そこでは、自律、他律に対する神律の優位、内容-形式-内実の三幅対における内実の優位を明らかにした。その際、誤読の生じないように、ドイツ語のInhalt-From-Gehaltに相当する英語と日本語の多様な訳語を、多数の文献を詳細に調べて整理した。要するに、内実Gehalt、実質substance、趣意import、あるいは深層内容depth content とは、精神的実質性であり、形式にその意味を与えるという本質的な意味、無制約的な意味である。内実は形式を媒体として内容において捉えられ、そして表現される、というのである。第三の報告では、建築を含む視覚芸術・造形芸術における主題(内容)-形式-様式の三幅対における様式の意味についてのティリッヒの解釈を整理した。つまるところ、用式は内実を個性的な形式において表現する、ということである。そして、宗教芸術についていえば、芸術作品においては、究極的意味と究極的存在の経験がその様式において表現される、のである。本研究はここにおいてしだいに核心に近づいてきた。 ティリッヒの建築論そのものの研究と平行して、プロテスタント神学者や、また、比較的近年に注目すべきプロテスタント教会堂を建設した牧師や建築家と面談して、プロテスタント教会堂像を探りつつある。近代教会建築家ピエトロ・ベルスキ論やノルベルグ=シュルツの教会建築論の研究もすこしづつ進めている。
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