プロテスタント教会建築論研究の中核的主題として、文化の神学者といわれるパウル・ティリッヒ(1886-1965)の建築論・造形芸術論の全貌を、彼の論文・講演を綿密に精査することによって明らかにすることに努めた。まずティリッヒの文化の神学における基礎概念をきっちりと把握することからはじめて、「宗教と文化の本質的相互帰属の原理」を詳細に跡づけ、「宗教とは、究極的にかかわっていること、究極的にかかわっているという関心をいだくことである」とするティリッヒの実存的態度を詳論した。ついで、自律、他律に対する神律の優位、内容、形式に対する内実の優位を示し、その際、内実Gehaltという用語の英語訳、日本語訳の多様性を整理した。内実は形式を媒介として内容において捉えられ、そして表現される、ということである。そこで、建築を含む造形芸術における主題、形式、様式の三幅対における様式の意味を論じて、様式は内実を個別的形式において表現するのであり、芸術作品においては究極的意味と究極的存在の経験がその様式において表現される、というのである。したがって、通常俗的とよばれている種類の芸術も宗教的でありうるのであって、彼は〈表現主義的〉ないしは〈表現的〉な芸術に宗教芸術の本道をみている。ここで表現主義的・表現的芸術において表現されるのは芸術家の主観性ではない。そこでは事物の表層を突破してリアリティーの深層があらわにされるのである。私は教会堂の空間については詳論するには至っていないが、彼の建築論において最も重要な概念は〈聖なる空虚〉である。プロテスタントの教会堂空間は聖なる空虚でなければならないのである。〈聖化〉と〈誠実〉という宗教芸術の統合すべき二つの原理について、近代建築の特質である誠実をなによりも重んじつつ、宗教的空間の本質である聖化の空間を実現しなければならないのである。私は以上のようなティリッヒの建築論・芸術論を明らかにしつつ、牧師や建築家と議論して建てられた教会堂をも考察しているが、その成果は発表に至っていない。
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