我々はメカニカルアロイング(MA)試料がバルク試料に比べて極めて早く相変態を起こすことを見いだし、低温領域平衡状態図決定に利用する基礎研究を進めている。昨年度に行なったFe-Cr系に関する研究によりMA試料の迅速な相変態は結晶粒径が通常のバルク試料より数桁小さいことに起因することが判明した。本年度はMA法と同じく粒径の小さい試料を作る手法として知られている高速DCスパッタ法とMA法を比較検討した。 平衡状態図決定実験に要求されるバルクとみなせる厚さの試料をDCスパッタ法によって作製する装置を開発し、Fe-Cr系の試料作製を行った。この手法でもMA法と同じくα相を作製できることがわかったが、MAと異なり薄膜でのみ生成が報告されているA15構造の準安定Fe_<50>Cr_<50>が出来やすく、α単相を得るためには3×10^<-7>Torr以下まで真空排気することと成膜速度を抑えることが必要であった。一方、成膜速度を抑えると結晶粒径が大きくなるため相変態速度が大幅に低下した。MA法は単相試料の作製、試料作製時間、そして相変態速度の点でスパッタ法よりも優れおり、低温領域平衡状態図決定にとって最も有力な手法であることが証明された。 MA試料による実験状態図決定の実例として昨年度に引き続きFe-Cr系を取り上げ、本年度は高温のα→σ+α線の決定を行った。Fe_<30>Cr_<70>において、この線が710℃と700℃の間にあることが判明し、最新の状態図であるItkinのものよりも1986年のKubaschevskiのものの方が実験との整合性がよいことがわかった。
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