研究概要 |
金属中の水素の基本的な挙動を理解する上で、トラッピング現象の結晶構造依存性を明らかにすることは意義が大きい。本研究では、トラッピング効果が大きいと期待されるNb-Ti合金(bcc)および、Pd-Y合金(fcc)、fccおよびbccの両構造をもつPd-Cu合金について、水素の拡散と溶解度の測定、水素のよる内部摩擦の測定などを行った。 本研究で得られた主な結果は以下の通りである。1)Nb-Ti合金中(bcc)では、水素はTiの周りの2種類のトンネリング状態にトラップされている。2)PdにTiやYを添加すると水素の拡散が増加する。3)B2規則構造のPd-Cu合金ではTiを不純物を添加すると水素の拡散係数が1桁ほど低下するが、fcc不規則構造中では水素の拡散はほとんど変化しない。 以上のように、bcc合金とfcc合金中における水素と合金原子の相互作用には本質的な違いがあることが明らかになった。bcc構造中の水素の拡散は量子力学的な過程(トンネル効果)が支配している。合金原子を含まない純金属の場合は、水素は格子全体にわたりそのような量子力学的な拡散が起こっているが、合金では合金原子の周りに別のトンネリング状態(トラップ状態)が形成されために均質な拡散が起こらなくなる。トラップ状態と自由な水素の状態のエネルギーが異なるために、この2つの状態間での遷移が著しく阻害され、これらの状態間の水素のジャンプが古典的なオーバーバリアジャンプに近くなり、全体的に見ると水素の拡散が低下するものと考えられる。一方、fcc構造中ではもともとの拡散が古典的な拡散に近いものであり、合金原子の添加により水素に対するポテンシアルが乱されても、拡散機構が大きく変化しない。このために、fcc構造中では水素の拡散が遅くなることがほとんどなく,添加する合金原子の種類によっては格子の膨張によって拡散が速くなる可能性もある。
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