本年度行われた面心立方構造(FCC)を持つC60結晶と稠密六方構造(HCP)のC70結晶の結晶欠陥の研究の実績を以下のように報告する。 (1)C60結晶とC70結晶の硬さの温度依存性とすべり系の決定 C60のすべり系の決定をおこなうために、微小硬度計によって200Kから500Kまでの温度範囲で硬さの測定をおこなった。その結果、これらの温度範囲ではそのすべり系はすべり面が(111)ですべり方向が[110]であることがわかった。このことはすべり系および転位の挙動はFCC金属と同じであることがわかった。一方、C70結晶の硬さの温度依存性はHCP金属と同じであった。 (2)C60結晶の光生成物と転位 硬さの温度依存性で観察される400Kでの異常を説明するために光照射による硬さの変化をしらべた。C60結晶の硬さの光照射時間の依存性を観察した結果、室温では硬さは照射時間に強く依存して照射時間とともに増大した。しかしながら、500K以上では硬さは照射時間に関係なく変化しなかった。このことから硬さの異常は光生成物が表面近傍に生成され、表面が見かけ上硬くなることによるということがわかった。C70結晶はこのような光に対する敏感さはなく、光生成物の影響は考えられない。 (3)結果 以上のことから結晶のすべり系はその結合様式に関係なく結晶の構造にだけ強く依存した。しかしながら、硬さの温度依存性や光に対する効果はむしろ結晶構造ではなく、結合様式、分子自身の性質などに強く依存していることがわかった。
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