面心立方構造(FCC)を持つC60結晶の結晶欠陥の研究を行い、従来研究されてきた、FCC金属の転位の挙動を比較した成果を報告する。 (1)C60とC70の結晶成長と成長転位の観察 気相成長法によって育成した3-5mm程度の良質な結晶の結晶性を評価するためにエチピット法と放射光X線トポグラフによって転位の同定をおこなった。その結果、成長転位の密度は10^<3-4>cm^<-2>であり、結晶の端から導入されたすべり転位のバ-ガクベクトルbは1/2[110](b=10.0Å)であり、FCC金属のそれと一致した。 (2)C60とC70結晶の硬さの温度依存性とすべり系の決定 C60結晶のすべり系の決定をおこうために、微小硬度計によって200Kから500Kまでの温度範囲で硬さの測定をおこなった。その結果、これらの温度範囲ではそのすべり系はすべり面が(111)ですべり方向が[110]であることがわかった。このことはすべり系および転位の挙動はFCC金属とおなじであることがわかった。 (3)C60結晶の光生成物と転位 硬さの温度依存性で観察される400Kでの異常を説明するために光照射による硬さの変化をしらべた。C60結晶の硬さの光照射時間の依存性を観測した結果、室温では硬さは照射時間に強く依存して照射時間とともに増大した。しかしながら、500K以上では硬さは照射時間に関係なく変化しなかった。このことから硬さの異常は光生成物が表面近傍に生成され、表面が見かけ上硬くなることによるということがわかった。 (4)結論 以上のことから結晶のすべり系はその結合様式に関係なく結晶の構造にだけ強く依存した。しかしながら、硬さの温度依存性や光に対する効果はむしろ結晶構造ではなく、結合様式、分子自身の性質などに強く依存していることがわかった。
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