本研究は、繰り返し塑性変形による材料の劣化過程である疲労現象に及ぼす環境効果を定量的に評価することを目的とするものである。疲労への環境効果は材料とガスの種類、ガス量の組み合わせによって決まる。ここではAl-Li合金、純チタンおよびFe-3%SI合金の3種類の金属材料を供試材とし、湿度を制御した大気、窒素、アルゴンの3種類のガス環境中および真空中において、主として疲労き裂伝播挙動に及ぼす環境効果に着目して実験を行った。またFe-3%Si合金についてはSTMによる表面微細精密測定を試みた。 まず各ガス環境で一定荷重振幅疲労き裂伝播試験を行った結果、いずれの材料においても真空中に比べガス環境中では高い伝播速度を示すことが明らかとなった。さらにAl-Li合金について一定ΔK疲労き裂伝播試験を大気中の相対湿度を0.01%から40%RHまで系統的に変化させて行い、大気中の水蒸気が疲労き裂伝播に及ぼす効果について検討を行った結果、伝播速度は30%RHまでは相対湿度の増加に伴い大きくなるが、これ以上ではその効果が飽和することがわかった。またAl-Li合金特有の層状割れが真空中では起こらず、層状割れの発生に大気中の水蒸気が関与していることも実験的に明らかとなった。STMによりFe-3%Si合金の疲労破面上に形成されたストライエーションを観察し、ナノメートルオーダーの3次元形状測定が可能であることを示した。ただし、STMでは表面の酸化被膜の影響を受けてしまうため、金蒸着を施す必要があったが、このため環境による表面の変化がマスクされてしまい、環境効果の定量化は困難であった。疲労に及ぼす環境効果を表面微細精密測定により定量的に明らかにするには、さらなる表面処理法の開発ならびに原子間力顕微鏡等の使用が必要であると考えられ、今後の課題としたい。
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