本研究では、金属の高温酸化により生じる酸化皮膜の不定比性が、高温酸化時の酸素分圧を変化させることにより制御できることに着目し、酸化皮膜の不定比性の制御により酸化皮膜上で起こる光電気化学反応の活性化を試みた。試料には光電流の比較的大きなTiO_2皮膜を選び、金属Tiを酸素分圧が10^0から10^5Paの雰囲気中で酸化することにより不定比性を制御したTiO_2皮膜を作製した。本研究で得られた成果を要約すると次の通りである。 1.TiO_2皮膜作製時の酸素分圧を低下させることにより、TiO_2皮膜電極の分極電位上昇に伴う光アノード電流の上昇の仕方は増大し、光アノード反応が活性化することがわかった。 2.TiO_2皮膜作製時の酸素分圧を低下させてもルチル型TiO_2の結晶構造は変化せず、また皮膜極表面部のTiのイオン状態も+4価のまま変化しなかった。また酸素分圧を低下させてもバンドギャップエネルギー、フラットバンド電位といった半導体電極の特性も変化しなかった。 3.TiO_2皮膜作製時の酸素分圧を低下させることにより皮膜中のドナー濃度が増大することがわかった。また皮膜中のTi濃度を分析することにより、酸素分圧の低下によりTi濃度がわずかに増大することがわかった。したがって、皮膜作製時における酸素分圧の低下は皮膜中における酸化物イオン欠陥(過剰Tiイオン)を増やすことがわかった。 4.上述した1、2および3の結果に基づき、酸素分圧の低下は皮膜表面における過剰Tiイオンに対応する表面準位を増加させ、表面準位を経過して起こる光電気化学反応を活性化すると考察した。
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