変態誘起塑性型複合組織鋼(TDP鋼)の張り出し性および穴広げ性に及ぼす金属学的組織因子、成形条件の影響は以下のように見い出された。 1.金属学的組織因子の影響:室温での張り出し性および穴広げ性は第2相形態を微細針状型とすることにより従来鋼に比較して1.5倍以上の大幅な改善が得られた。これらの成形性の改善は第2相の微細化により母相/第2相界面でのボイドの発生が抑制されたことに主に起因し、残留オーステナイト(γ)の体積率が増加するほど、また残留γ内の炭素濃度が低下する(残留γの安定性が低下する)ほど顕著に現われた。 2.成形条件の影響:温間加工により両成形性は著しく改善された。とくに、穴広げ性は現在複合組織鋼の中で最も良好な穴広げ性をもつフエライト+ベイナイト鋼を上回り、最良の高強度鋼板であることを見い出した。最適な成形温度Tpは20〜250℃の範囲にあり、残留γの炭素濃度から計算されるMs点の増加に伴い直線的に増加した。この最適温度は残留γのひずみ誘起変態が適度に抑制される温度と対応し、この温度において残留γのひずみ誘起変態がボイド形成を最も効果的に抑制したことが認められた。 打抜き穴加工での最適クリアランスは10%であり、その加工速度を増加するほど穴表面の損傷(ボイド形成など)を抑え、穴広げ性をより改善できた。 3.今後の検討課題:微細針状型の第2相を得るための熱処理は実用上コスト上昇につながる。このため、同じ様な微細な組織が望めるベイナイト鋼に残留γを含ませた新しいタイプの高強度鋼板を開発していきたい。
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