研究概要 |
1972年,Kimと高橋は低真空N_2雰囲気中においてガラス基板上に作製した蒸着膜の飽和磁束密度(Bs)が2.58Tであり,またこの膜がFeとFe_<16>N_2とから成る混合膜であると報告した.さらに蒸着膜中のFe_<16>N_2の体積分率から計算されたFe_<16>N_2単体のBsは超巨大な2.83Tとなることを示した.この値はこれまでに発見されたいずれの磁性材料のBsより大きく,例えばFe-45%Co合金であるパーメンジュールのBsよりも0.4Tも大きいことから,大いに注目された.Fe_<16>N_2の結晶構造はJackにより報告されたように体心立方晶構造のFe格子中にN原子が規則配列した体心正方晶構造であり,準安定相のため通常の作製法ではFe_<16>N_2より安定なFe_3NあるいはFe_4Nの方が形成され易い.このため多くの研究者により単体のFe_<16>N_2膜作製が試みられたが,成功は見られず長い間夢の磁性材料でしかなかった.しかしながら,1990年,杉田らによりGaAs(100)基板上に成長させたFe単結晶基板上でのFe_<16>N_2膜がエピ成長すること,またInGaAs(100)単結晶基板上ではFe_<16>N_2膜が直接成長出来,そのBsが2.8-3.0Tであることが報告された.また小野らによるスパッター法によっても,あるいはまた中島らによるイオン注入法によってもFe_<16>N_2の作製が可能であることが発表されて以来,窒化鉄に関する研究発表が活況を呈している.上記のようなバルク材料に比し,Fe_<16>N_2を粉末状態で得ることが出来れば,その用途は飛躍的に増大するだろうことが予想される.本年度の結果では,窒素を24at%まで固溶した窒化鉄の合成に成功した.
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