アコースティックエミッション(AE)の原波形解析とモメントテンサー解析によって、低合金鋼の水素脆性割れとオーステナイトステンレス鋼の活性経路溶解型応力腐食割れ(APC-SCC)現象中に発生する微小破壊のダイナミックスとメカニズムを解明した。大型CT試験片を用いたQT処理SCM440の水素脆性割れ割れでは、面外変位計測定型1チャネルと、縦波振幅を計測出切る7チャネル、計8チャネルモニターリングシステムを用いた。縦波振幅の放射パターンについて詳細なシミュレーションとレーザーを用いたセンサー感度校正を行った。このシステムによって、音源位置評定とモーメントテンサー解析を可能にした。変位計測センサーと音源座標が明確に出来たこと、テンサー解析によって破壊面法線方向、変位の食違い方向(キネマチックス)が明らかに出来たことから、混合モード破壊に対する解析的応答関数(第二種グリーン関数)を正確に求めることが可能になり、破壊速度(キネテイックス)を求めることを可能にした。水素脆性破壊については、切欠き先端での負荷方向割れ、混合モード破壊に対するせん断破壊の寄与率を明らかにし、純粋モードI型破壊の発生は極めて少ないこと、微小破壊は巨視亀裂先端に沿って小さなグループを作りながら飛び飛びに発生し、その間を高せん断率破壊が連結することなどを明らかにした。原波型解析から、微小亀裂の発生速度は最高400m/sにも達することなどを明らかにすることなどを明らかにした。キネティックスとキネマッティックス双方を求めたのは世界初である。 一方、APC-SCCでは、常温でも激しい粒界型SCCを発生する鋭敏化AISI304鋼の希釈ふっか物SCC酸性テトラチオン酸割れのAEモニターリングを行った。いずれの場合も壁開型割れによるAEが検出され、SCCは、活性経路のアノード溶解だけで進んでいるのではないことを明らかにした。微小破壊速度は40m/s程度であるが、亀裂先端部の応力が高くなると300m/sにも達する可能性があることを明らかにした。この種の破壊は、特定アニオンの吸着による結晶粒界の凝集力の低下のが関与していることを示唆した。
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