研究概要 |
(1)Ag薄膜の残留応力測定方法 X線回折による応力測定原理に基づき、CrKα線を用いて、格子定数a=0.40856nmのAg薄膜について{311},{222}の両回折線より残留応力を求めた。なお、X線応力係数にはAgバルク材の値を用いたが、今後は薄膜単体の応力係数を測定の予定である。 (2)試験片 基材には、Glass,多結晶Si,Cu(70,50,30μm),単結晶NaC1を用いた。Ag薄膜は、この基材表面に真空蒸着により作製したが、膜厚を0.15〜3.00μmに変化させた。 (3)残留応力に及ぼす基材材質の影響 Ag薄膜が1μm一定の条件で比較すると、基材上のAg薄膜の残留応力はSiで60MPa,Glassで50MPa,Cuは基材板厚依存性があり、70μmの場合30MPa,30μmの場合10MPaであった。回折線ピーク強度はいずれもランダムであり、結晶の配向性はほとんど無い。 (4)残留応力に及ぼすAg膜厚の影響 Si基材,Glass基材では膜厚の影響はきわめて類似しており、結晶の配向性も無く{222}と{311}での測定結果の差も小さく、膜厚が2.30μm未満では、ほぼ50MPa一定の引張残留応力であり、こりより厚くなると、約80〜120MPaに増加する。Cu基材では板厚の影響により絶対値が異なるものの同様な傾向が認められた。 (5)NaC1基材から剥離前後のAg薄膜の残留応力について NaC1基材上のAg薄膜の残留応力は、基材との線膨張率の差から0〜-180MPaの圧縮残留応力となるが、基材から剥離後はいずれもほぼゼロになる。したがって、Ag薄膜の残留応力は、基材による熱変形拘束によって生じたと考えられる。なお、半価幅の測定結果より、薄膜裏面(基材側)に硬化層=固有歪が認められるが、基材剥離後は薄膜全体がこの固有歪によって自由変形をするために、残留応力は形成されないと考えられる。
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