(1)Ag薄膜のX線応力係数の測定 X線解析によるAg薄膜の内部応力測定過程において、昨年度まではAgバルグ材のヤング率を用いて応力算定を行っていたが、薄膜のヤング率はバルグ材とは異なるとともに、膜厚依存性があると考えられ、引張荷重下におけるX線回析方法を用いた歪の測定および通常の機械的引張試験方法によって得られる応力-歪曲線の勾配測定より薄膜のヤング率を求めた。その結果、膜厚t≧0.5μmではほぼ30GPa一定であり、バルク材の73.2GPaに比べて半分以下であった。膜厚t≦0.5μmになると、ヤング率Eに膜厚依存性が認められ、E=132.65e^<-2.97t>で近似される。したがって、t≦0.2μmでは薄膜のヤング率はバルグ材のヤング率より大きくなる。 本研究で取り扱ったAg薄膜試験片の膜厚は公称膜厚で0.2≦t≦4.0μmであり、t=0.2μmの試験片以外は、昨年度までの残留応力の絶対値を30/73.2≒0.41倍して評価する必要がある。 (2)Ag薄膜の残留応力発生機構について 潮解性NaCl基材上にAg蒸着薄膜を作製した試験片を用いて、基材と薄膜の剥離前後における残留応力の変化を測定した結果、剥離後の薄膜には残留応力は存在せず、自由変化を生じている事がわかった。この場合、基材と接していた薄膜表面には硬化層が確認され、また、結晶成長方位がランダムであることから、この硬化層=固有歪の存在が、薄膜の残留応力を形成していると考えられる。したがって、弾性論に基づく固有応力論によって残留応力の推定が可能であり、当初予定したいたFEM解析を行う必要性は無いと考えられる。 (3)イオンプレーティング膜と真空蒸着膜の内部応力 以上は、Agの真空蒸着膜に関する結果であるが、イオンプレーティング膜では基財面垂直方向に{111}面が強く配向しており、膜厚が厚いほどその傾向は顕著である。そのために、残留応力は膜厚t=0.6μmを境にして圧縮から引張へと変化する。その絶対値は真空蒸着膜よりも小さく、Glass基材上の1.0μm程度のイオンプレーティング膜では、残留応力はほぼゼロである。
|