レーザー反射鏡表面のAg薄膜の残留応力をX線回折方法により実測し、さらにはその残留応力を推定する方法について、検討を行った。得られた主要な結論は以下のとおりである。 1.Ag薄膜は真空蒸着やイオンプレーティング等によって作製されるが、Glass基材上の両薄膜について、X線回折法による残留応力測定を行った結果、イオンプレーティング薄膜の回折図形から、試験片面に垂直方向に{111}結晶方位が配向していることが明らかになり、X線による応力測定は不適であると考えられるが、強いて測定する場合には、{311}回折面を用いるべきである。一方、真紅蒸着Ag薄膜の回折図形からは結晶成長方位がランダムであり、{222}回折面および{311}回折面での応力測定が有効であることが明らかになった。そこで、本研究対象をAg蒸着薄膜に絞った。2.各膜厚毎に(1)NaCl基材上の薄膜の残留応力、(2)剥離後の薄膜表面の残留応力、(3)剥離後の薄膜裏面(基材と接触した側)の残留応力を測定した結果、剥離前の圧縮残留応力は、剥離後の薄膜裏面において、約±15MPaの範囲であり、膜厚が2.0μm以下ではほぼゼロであった。これらのことから、残留応力形成理由として次のような事が考えられた。(1)Ag蒸着薄膜の残留応力は蒸着過程での熱応力σ=EαTの反力として基材から受ける拘束応力によるものであり、基材が除去されると、薄膜の表裏面ともに残留応力は解放される。(2)半価幅の図より、薄膜裏面に硬化層=固有歪の層が存在するが、基材剥離後は薄膜全体がこの固有歪によって自由変形をして残留応力は形成されない。3.以上のX線回折法によって測定されたAg蒸着薄膜の残留応力σは、「はり理論」と「固有応力論」を組み合わせ、σ=-Eg(1-β)(1+3β)の式で推定評価できることを提案した。ここで、g:固有歪、β≡h_1/h、h:膜厚、h_1:固有歪発生領域、E:薄膜のヤング率である。
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