本研究は、2液相を形成するエタノール-ベンゼン-水系共沸混合物を用いて全還流蒸留実験を行い、不均一系共沸蒸留における熱および物質移動速度におよぼす操作因子の影響について検討したものである。実験に用いた蒸留塔は、還流液の流動状態が観察できかつ濡れ面積が明確なガラス製濡壁塔である。濡壁塔下部には2つのスチルが取り付けてあり、原料液の油相と水相を独立に加熱することにより塔内蒸気濃度を広い範囲に変えられるようになっている。 水相量の少ない2液相領域における各成分の無次元拡散流束は、蒸気分縮の影響を考慮した円管内層流物移動の理論値と一致することがわかった。しかし、水相量の多い2液相領域のデータについては、無次元拡散流束が理論値よりも大きくなった。 この点について検討するため各成分の濃度推進力の塔内分布を計算したところ、ベンゼンと水の濃度推進力はそれぞれ塔頂と塔底で大きく異なっており、しかも塔内濃度推進力分布に偏りがあることがわかった。すなわち、濡れ壁塔の軸方向にそって濃度推進力が変化しているため、濃度推進力の代表値として対数平均濃度推進力を用いることが適切かどうか問題があると推定された。このことが、無次元拡散流束が理論値より大きくなる原因と思われる。念のため、昨年度開発したシミュレーション法を用いて塔内の濃度および還流液流量を計算したところ、計算値と実測値はおおむね一致した。 今後この問題を解決するため、塔内濃度推進力一定の条件が得られるように濡れ壁長さの短い塔を用いて、各成分の物質移動速度を検討する予定である。
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